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新潟家庭裁判所 昭和57年(少)438号 決定

少年 S・E子(昭四二・五・二〇生)

主文

少年に対し強制的措置をとることは、これを許可しない。

理由

一  本件申請の要旨は、「少年は現在中学二年生であるが昭和五六年六月ころより不良交遊が始まり、万引、喫煙、シンナー吸引、無断外泊、家出、不純異性交遊等の問題行動を繰り返し、家族や学校の再三にわたる指導にもかかわらずいつこうに素行は改らず、昭和五七年一月に家出をした際には成人を相手に一回売春をしている。少年の実父母は離婚しており、少年は姉と共に現在母方実家に引取られて養育されているが、少年の度重なる非行に家族との折合いも悪化してきている。少年は情緒的に不安定で享楽的生活への志向が強く、今後も前記のような問題行動を反覆するおそれが十分に認められるから、少年に対しては矯正施設への入所をはかり生活のたて直しをはかることが必要であり、閉鎖施設のある国立教護院きぬ川学院へ通算六ヶ月間を限度に強制収容することの許可を求める。」というにある。

二  本件記録及び審判の結果によると、次の各事実を認めることができる。

1  少年の父母は昭和四九年二月に協議離婚し、母が親権者となつたが、同年一〇月母が再婚するに際し、母の再婚相手と少年との間に養子縁組がなされた。母と養父は昭和五四年四月養父の郷里である岩手県に転居し、少年は姉と共に母の実家に引取られ、祖父母と一緒に暮らすことになつたが、姉妹は母と別れた後はこれまで生活保護を受けてきた。母と養父は三年後少年らを引取るという約束をしていたのにかかわらず、その後一回も少年らに会いに来たことがない。養父には現在少年らを引取る意思は認められず、母親も、自分達の生活に手一杯であり養父の態度からみても少年らを引取る余裕はない旨回答してきている。なお、母親と養父との間には現在三人の子供がいる。

2  少年はこのような両親の態度に対し不信感を次第につのらせ、自棄的な気持になつてゆき、昭和五六年六月ころから前記のような不良交友、万引、喫煙、シンナー乱用、家出、不純異性交遊等の問題行動を反覆し、昭和五七年一月二七日から同年二月一七日にかけて家出した際には、成人相手に一回売春をして一万五、〇〇〇円を受け取つている。

3  少年の指導に手をやき事態を憂慮した中学校から新潟県中央児童相談所に対し通告がなされ、同相談所は昭和五七年二月一七日少年を一時保護した後、同月一九日本件申請を行い、同日当裁判所により少年に対し観護措置がとられた。

三  前記のような少年の非行態様及び家庭環境等を考慮すると、少年のこれ以上の非行の深まりを防止しその健全な育成をはかるためには、本件申請を許可し少年を然るべき施設に収容することも一つの方法であるとは思われるが、

1  鑑別結果によると、少年には入所による落ち着きと内省の深まりがみられるうえ、学校や家庭への不適応はそれ程強いものではなく、予後に不安は残るものの現段階ではまだ在宅保護の余地が残されていることが認められること

2  少年の祖父母は叔父夫婦とも協議した結果、少年をもう一度引取つて世話をしたいとの意向を表明していること

3  少年は今まで自分のしてきた不良行為に対する悔悟の気持を示しており、社会にもどつて出直しをしてみたい旨強く希望していること

4  少年はこれまで専門機関による指導をほとんど受けたことがなく、児童相談所による指導経過をみたうえで施設収容の要否を再考するのも一つの方法であると思われること

を考慮すると、現段階においては本件申請を許可して少年に対し施設収容の措置をとることはせずに、在宅保護の機会を与えその効果に期待するのが相当であると思料する。

よつて、少年に対し強制的措置をとることを許可しないこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 井上哲男)

〔参考一〕 少年調査票〈省略〉

〔参考二〕 鑑別結果通知書〈省略〉

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